結婚しなくなった日本人
昔は「結婚してこそ一人前」などとも言われたように、多くの人が結婚するのを普通と考える時代がありました。しかし時が経ち、今では社会もすっかり変わってしまいました。かつてほぼ全員が結婚したのは嘘のように、現在の日本では婚姻数も婚姻率も右肩下がりです。
内閣府の「令和元年版少子化対策白書」からも明らかなとおり、最も婚姻数が多かったのは高度経済成長期の1972年。実に約110万組が結婚しましたが、それ以降はずっと減少傾向です。
日本の婚姻件数と婚姻率の推移
厚生労働省「人口動態統計」
もちろん人口が減ったからというのはあるにせよ、人口千人当たり10%近かった婚姻率は年々低下。2017年以降は5%未満になってしまいました。史上最低と言われる2018年は、婚姻数は58万6000組、婚姻率は4.7%。つまり、日本人はどんどん結婚しなくなっているのです。
少し前の「平成16年版の少子化対策白書」が警鐘を鳴らしていますが、いわゆる結婚適齢期である20~34歳の未婚率は、婚姻数が最も多かった1970年が男性約53%、女性35%。しかし2000年には、20~34歳の未婚率は男性約68%、女性約56%まで上昇。もちろんそれ以降も年々未婚率は上がっています。
結婚したくない
実際それは意識にも表れており、NHKが平成30年に行った調査では、7割の人が「必ずしも結婚する必要はない」と回答しました。特に30代の人は、実に9割近くがこう回答をしています。そして内閣府の「平成30年 少子化社会対策に関する意識調査」では、20歳~49歳の男女のうち、1/4の人は「結婚するつもりがない」と答えています。
カネと自由が減るのが、結婚の障壁
なぜこんなにみんな結婚しなくなったのでしょうか?価値観の多様化、女性の社会進出など、色々と理由が挙がりますが、バツ2の私が実際の自分の経験や、周りの人の話を踏まえて考えると、結婚しない(できない)理由は、経済的理由と独身のような自由がなくなることが一番大きな理由です。身もふたもない言い方をすると、「カネと自由が減るのが嫌」ということですね。
「適当な人に出会えないだけ」の嘘
「いやいや、そうじゃないよ、これぞ!という相手に出会えば結婚する気はある」。この意見は未婚者からは特によく聞きます。実際、上述の平成30年度 少子化社会対策に関する意識調査によれば、結婚していない理由についての第1位は「適当な相手に巡り合わない」で、約半数となっています。
しかし、よく考えてほしいのです。「適当な相手」ってどんな人ですか?
結局それは、誠実で優しくて、収入もそれなりにあって、自分好みのルックスや同じ価値観を持っている人で…と、なりませんか?
残念ながらそういう人は早々に結婚してしまうんです。もちろん、大切な結婚ですから、相手にも色々と条件を求めるのはよく分かります。社会は発展し、昔と違って愛さえあれば何とかなるという時代でもありません。しかし、誠実で優しく、年収も相応という人は、今の日本ではもはや希少な存在です。
特に女性側からすれば、出産・子育てを考えればこそ、男性に400~500万程度の年収を求めるのは理解できますが、一向に景気が上向かない日本では、そのレベルの収入がある男性すら少数派なのです。さらに出産や子育てのため、女性が仕事から離れてしまうと、そのくらいの年収では都心で暮らすには余裕がありません。
そして、上記の内閣府の資料を読み進めると分かりますが、「適当な相手に巡り合わない」と答えた人に、相手を見つけるために何か行動を起こしたか?という質問をすると、「特に何も行動を起こしていない」が最多で、実に6割となります。
これは文字通り「自分が結婚したい相手がいなくても、特に行動はしない」ということです。つまり、結婚相手がいなくても、切羽詰まって探そうとはしない。すなわち「特に結婚しなくても良い」という意識の表れではないでしょうか。
もっと言うならば、「自分で結婚相手に設定している年収や性格、ルックスといった条件に合致しない相手なら、結婚という選択をしなくても良い」ということでしょう。
結婚には経済力が必要
多くの人が結婚しない(できない)理由として挙げた一つは「経済的理由」です。実際、同じ資料を見ると分かるとおり、「適当な相手に巡り合わない」に次いで多い未婚の理由は「結婚資金が足りない」となっているのがわかります。
他の資料でもその傾向は現れています。この手の調査では有名な国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」を見てみましょう。そうすると一目瞭然で、未婚者における「結婚の障害」の第1位はぶっちぎりで「結婚資金」であり、実に4割以上の男女がそう答えています。つまり、結婚しようにもお金がないんですね。
この20年で50万円も使えるお金が減ったという事実
しかし、これは結婚を考える人たちの努力が足りないという話ではありません。日本の経済は失われた20年、30年ともいわれるように、一向に上向かない状態が続いており、さらに2度も増税しています。それはデータにも表れており、日本人の実質賃金は減少が続いています。
年 | 実質賃金前年比 | 年 | 実質賃金前年比 |
---|---|---|---|
平成25 | -0.7% | 平成29 | -0.2% |
平成26 | -2.8% | 平成30 | 0.2% |
平成27 | -0.8% | 令和元 | -0.9% |
平成28 | 0.8% | 令和2 | -2.3% |
「日本経済のこれから」より。令和2年はコロナウイルスの影響が最も大きかった5月の数値を参照。
多くの日本人の可処分所得(使えるお金)はバブル崩壊以降、実に50万円も減少しているのです。
年 | 可処分所得 中央値 | 年 | 可処分所得 中央値 |
---|---|---|---|
1985 | 216万円 | 2003 | 260万円 |
1988 | 227万円 | 2006 | 254万円 |
1991 | 270万円 | 2009 | 250万円 |
1994 | 289万円 | 2012 | 244万円 |
1997 | 297万円 | 2015 | 244万円 |
2000 | 274万円 | 2018 | 245万円 |
こんな状況ではあるものの、やはり人生の一大イベントである結婚には、まとまったお金がかかります。例えば結婚式一つとってみても、結婚誌として有名なゼクシイの調査では、おおよそ350万円、さらに婚約から新婚旅行まで含めれば460万円にもなります。いらないオプションをカットしたり、ご祝儀や親からの援助があるにせよ、どう少なく見積もっても、カップルでお互い100万円~200万円程度は貯金しておいた方がベターではないでしょうか。
さらに出費は続きます。当然結婚して2人暮らしとなれば、ワンルームというわけにはいかないでしょう。1DKや2DK程度の広い住居が必要です。合わせて家具を新調することも考えられます。こういった新生活を始める分の費用も見据えておかなくてはなりません。こうなると、さらに百万円単位の出費は覚悟すべきです。
結婚適齢期の世代にはお金がない
ところが、結婚適齢期ともいうべき若い世代は、まだ社会人経験が短く、収入が高くありません。国税庁の「平成30年分民間給与実態統計調査」を見れば分かるとおり、日本人の平均給与は441万円ですが、20~24歳の平均給与は267万円、25~29歳では370万円、30~34歳では410万円です。
年齢 | 平均給与 |
---|---|
20~24歳 | 267万円 |
25~29歳 | 370万円 |
30~34歳 | 410万円 |
35~39歳 | 448万円 |
国税庁平成30年 民間給与実態統計調査 「年齢階層別の平均給与」より
しかもこれは正規雇用・非正規雇用を問わず集計した統計です。現在、雇用される従業員の1/3を占める非正規雇用の従業員の場合、平均給与額は179万円しかありません。こんな状況の中で、数百万円の貯蓄をできる人はどれくらいいるのでしょうか?
仮に節約しようと考えても、給料が安ければ限度があります。そもそもそこまでして結婚を目指す意味はあるのかと考えてしまう人や、就職氷河期の人たちのように、最初から結婚を諦める人も多くなるでしょう。このように、経済的負担の大きさから、「結婚しよう」という気にはそうそうなれない人が増えるのは明らかです。
結婚すれば自由が減る
もう一つ、結婚をしない理由として大きいのは、自由が減ることです。独身でいれば、基本的に何をしても自由。公私ともに自分の裁量で好きに動けるのは事実です。
仕事に目一杯打ち込むもよし、自己研鑽や趣味に没頭しても、誰からも文句は言われません。収入の範囲内とはいえ、自分の好きにお金を使うことができますし、もちろん誰と付き合うのも自由です。
再度、平成30年の少子化社会対策に関する意識調査を見てみましょう。結婚意向がない人たちの結婚しない理由第1位は「一人の方が気楽だから」となっており、これもまたぶっちぎりで実に65%の人がそう答えています。さらに、結婚意向がない人たちの4割近くは、「一人で生きていくことで問題ない」と回答しているのです。
つまり、誰に気遣いすることもなく、自分の好きに生活できる。その方が結婚よりも魅力的だと考える人が相当数いるということです。
独身でも楽しめる時代
彼らの親の世代なら、「いやいや、ずっと独り者なんて良くない」「結婚して夫婦になれば良いこともあるんだ」と注意したくなる方もいることでしょう。しかし、時代は移り変わっています。
ネットやSNSが発展し、気の合う仲間と集うのは昔よりもはるかに容易になりました。都会であれば、最先端のスポットや流行の遊びもあり、一人でも楽しめることがあふれています。結婚すれば、自分の望むままに様々な場所に行ったり、気の合う人たちと気兼ねなく交流を深めてばかりもいられません。
また、前述のとおり、基本的に結婚適齢期の世代にはお金がありませんが、YouTubeのように無料のコンテンツサービスが多く生まれ、多少の月額料金を払えば、映画や書籍、音楽など、全て定額で利用し放題のサービスもたくさんあります。メルカリなどのサービスを使えば、欲しい物を安く手に入れることも可能ですし、結構リーズナブルに楽しめる時代なのです。
結婚しようと思えば、結婚資金のためにかなり節約に励まざるを得ない人でも、結婚しないのであれば可処分所得が増えるので、趣味や遊びに使えるお金にも余裕ができます。独身であればその使い道も自由。無理して結婚を考えるくらいなら、自分の好きに行動し、お金も自由に使いたい。そう思う人が増えるのもうなずけるのではないでしょうか。
結婚のサンクコスト
こう説明しても、「いやいや、そんなに享楽的では…」という反論もあるかと思います。しかし、時代を踏まえてもう少し考えてみましょう。実は結婚にはサンクコスト(埋没費用。中止しても戻ってこないコスト)とも言うべきものがあります。
例えば、悪い例ですが、私のように離婚してしまえば(泣)、結婚するまでの費用や結婚後の生活費などは、結婚が失敗に終わっても戻ってきません。いえいえ、お金だけではありません。やはり関係がギスギスすれば、心労が絶えませんし、心身ともに疲弊します。
もちろん幸せな結婚なら何の問題もありませんが、そうならなかった場合、これらの経済的・肉体的・精神的なサンクコストを支払うことになります。しかも離婚してしまう確率は3分の1。結構なギャンブルではないでしょうか。あんなに疲弊してしまうくらいなら、その時間を全て有意義な活動のために充てていたら…そんな思いが全くないとは言い切れません。
そして、これは経営者として思うことですが、現在は仕事が昔よりもはるかに高度化しています。IT化に伴うPCスキルはもとより、コミュニケーション能力も必要ですし、その他様々なスキルやキャリアがなくては、レベルの高い仕事ができません。そしてレベルの高い仕事でなければ、給料は安い。安定した生活ができません。昔のように、年功序列のレールの上に乗っていれば、収入も増えて行くという時代ではないのです。
こうなると、仕事を頑張りつつ、自己研鑽も怠らず、常にスキルアップ、キャリアアップしていかなくてはなりませんから、働く人たちはかなり大変です。特に女性は結婚や出産でキャリアストップしてしまうと、もう追いつけないという状況になりやすく、社会問題化しているのはご存じのとおりです。
しかし現実的には仕事と家庭の両立は難しく、これもまた一種のサンクコストと言えるでしょう。つまり、結婚をして家庭を持つということと、キャリアを継続するのとどちらに軸足を置くべきか、考えなくてはならないのです。結果的に、経済も右肩上がりではない日本では、生きて行くために仕事に必死に注力せざるを得ないので、結婚から遠のく人が増えてしまいました。
これだけではありません。卑近なことかもしれませんが、結婚をすれば当人同士だけでなく、両家の家族とも親戚になりますから、折に触れて配慮が必要になってきます。こういった親戚付き合いも、良好に進むなら良いものの、価値観の相違からとかく問題になりやすく、面倒に思う人は多いものです。結婚しないならば、面倒な親戚付き合いも生じませんから、これもいわば結婚に伴うサンクコストと言えるでしょう。
本当に結婚したいですか?
さて、このように見てきましたが、あなたはそれでも結婚したいですか?「お前は離婚してるからそう思うんだろう!」と言われたらぐうの音も出ませんが(笑)、しかし、よく考えてほしいのです。
経済的には相当なコストがかかり、様々な自由も制限される。結婚はおめでたいイベントのため、とかく良いイメージだけが先行しがちですが、物事は良い面ばかりではありません。諦めなくてはならないこともあるのです。
憧れや体裁だけを考えて結婚という選択をすると、失敗することも十分あり得ます。結婚することで生じる生活の変化を、しっかりと事前に把握しておくのは大切なことではないでしょうか。
今や大変メジャーとなった「婚活」という単語の生みの親である、中央大学の山田昌弘教授によると、「今の若者にとって、恋愛はコスパの悪いもの」と映っているとのこと。恋愛をコスパで計るなんてショックな話でもありますが、述べてきたように、昔よりも社会が変化し、恋愛するのは「気を使う」「お金がかかる」「時間の無駄」と考える若者が多くなっているようです。これではその先にある結婚へ進む人が少なくなるのも無理はありません。
またホリエモンこと堀江貴文さんは、「家族とは、今付き合っている友人や、仕事をしている人たちだったりする―――家族のポートフォリオも時期によって変わるのでは」と述べています。つまり、旧来の家族という枠組みではなく、自分のライフステージごとに付き合う人たちが家族のような存在となっていくのではないかと考えているわけです。こういう生き方を選択すれば、結婚制度を元にした、家族という人間関係をベースと人生にとらわれることもなくなるかもしれません。
もちろん、どんな判断をしようとも、それは皆さんの自由です。こういった様々な状況を踏まえても、結婚したいと思える相手に出会うなら、それはとても素敵なことなのですから。時代は変化し、今は様々な生き方を選ぶことができます。だからこそ、結婚に際しても、自分なりの考えを持って、後悔のない選択をしてもらえたらと思います。